「ドムス チェア」と暮らす - エリザベス・ヘルトフト
コペンハーゲンを拠点に活動する写真家、エリザベス・ヘルトフト。彼女の家にある「ドムス チェア」は、時とともにその居場所や役割を変えながら暮らしに寄り添ってきました。最近では家族それぞれのお気に入りの場所となり、ときには誰が使うかをめぐって争奪戦が繰り広げられることもあるそうです。
エリザベスにとって、デザインは幼い頃からごく身近な存在でした。コペンハーゲンで生まれ育ち、ファッションやデザインを中心に活動する写真家として、家具は彼女の暮らしと仕事の両方に自然に溶け込んでいます。そんな彼女が初めて「ドムス チェア」に出会ったのは、フィンランドを訪れたときのこと。その佇まいにはどこか懐かしさがあり、同時に新鮮な魅力も感じたといいます。
「デンマークで育った私には、どこか親しみを感じる椅子でした。アルネ・ヤコブセンのような名作デザインというより、1950 - 60年代のデンマークの一般家庭に当たり前のようにあった、日常に根ざした椅子を思い出させたんです。同じ北欧デザインの系譜にありながら、そこには確かにフィンランドらしさを感じるのが印象的でした。」
現在、エリザベスは家族とともにコペンハーゲン中心部、ヴェスターブロとフレゼレクスベアの境界にほど近い、小さなショップやカフェが並ぶ通りに暮らしています。住まいには、長い時間をかけて集められた家具やオブジェが自然に溶け込み、肩肘の張らない温かな空気が流れています。そこにあるものは、ただ美しいだけでなく、日々の暮らしのなかで使われることを前提に選ばれたものばかり。機能と美しさ、そのどちらも大切にしながら、自分たちらしい時間を積み重ねています。
「私は、使うための『もの』が好きなんです。ここは展示空間ではなく、私たちが暮らす家ですから。ものの魅力や物語は、それが実際にどう使われるのか、そして暮らしのなかにどう寄り添っているのかから生まれると思っています。」
それは、家族に愛されながら日々使われ続ける「ドムス チェア」の存在にも重なります。暮らしのなかに自然と溶け込み、住人とともに時間を重ねながら少しずつ物語を育んでいく。
1946年、イルマリ・タピオヴァーラによって学生寮のためにデザインされた「ドムス チェア」は、その後、世界中の住まいや公共空間へと広がっていきました。ひとつの役割にとどまることなく、使う人や場所にあわせて新たな居場所を見つけてきた椅子です。
今から20年ほど前、当時ヘルシンキで仕事をしていた夫を訪ね、彼女はたびたびフィンランドを訪れていました。そのたびに足を運んでいたのがアルテックの店舗 Artek Helsinki です。少しずつ気に入った家具やアイテムを選び、それらをコペンハーゲンの自宅へと持ち帰っていました。そのなかのひとつに、ブラックステイン仕上げのバーチ材による「ドムス チェア」がありました。
当初は気に入ったデザインピースのひとつとして迎え入れられた「ドムス チェア」は、年月を重ねるなかで家族の日常にすっかり溶け込み、いまではすっかり自然とそこにある存在になっています。家具としての美しさを備えながら、日々の暮らしのなかで使われ、その時間をともに積み重ねていく——それは、エリザベスが大切にしている暮らしのあり方そのものなのです。
「『ドムス チェア』は、気軽で気取らない相棒のような椅子なんです。暮らしのなかで、あちこちに移動して、毎日を一緒に過ごしていくような存在ですね。シンプルだけど美しく、どこに置いてもしっくり馴染むんです。」
その言葉どおり、「ドムス チェア」は長年にわたり、彼女の住まいのなかでさまざまな役割を担ってきました。ホームオフィスのワークチェアとして、あるいはダイニングテーブルを囲む一脚として。仕事の時間にも家族の時間にも寄り添いながら、暮らしの変化とともに居場所を変えてきました。そして娘たちが年頃になると、「ドムス チェア」は思いがけなく、家族の人気者になりました。
「娘たちは、この椅子を取り合っているんですよ」とエリザベスは笑います。
その理由は、特徴的な短い肘掛けにありました。テーブルの近くまでぐっと引き寄せて座れるため、鏡の前で使うのにちょうどよく、メイクをするのにぴったりだったようです。今でが、娘たちのメイク専用の椅子になりました。
戦後間もない時代、学生寮のための椅子として生まれた「ドムス チェア」は、現代のコペンハーゲンで、十代の姉妹のお気に入りとして新たな物語を紡いでいます。暮らしに合わせて役割を変えながら、長く愛され続けること。それこそが、この椅子の魅力なのかもしれません。
20年前にエリザベスの家に迎えられた「ドムス チェア」は、家族の成長とともに役割を変えながら、長い時間の積み重ねがその姿にも刻まれています。
「長く使ってきたことが、ちゃんと姿に現れるんですよね。でも、私はそういうところが好きなんです。」
エリザベスにとって「ドムス チェア」は、単なる家具ではなく、家族の時間を静かに見守り続けてきた存在なのです。
“Simplicity.”