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脆さの中に強さを見出す

脆さの中に強さを見出す

Making of Tiili Collection 14 min

シャビエル・マニョサが、スペインのサンクガにある両親の陶芸工房を手伝い始めたのは12歳の頃でした。放課後の手伝いから始まった営みは現在まで続き、それからずっと、彼は、粘土を金型から押し出し続けています。工業デザインを学んだ後、家業を継ぐため故郷に戻り、以降、より現代的かつ複雑な新しいデザインと製造方法に挑むようになります。アルテックとシャビエル・マニョサが出会い、素材と製造工程における試行錯誤を重ねた日々は、実に5年に及びました。その粘り強く、熱心な探求の末、「押出成形」の熟練した工芸的技術と工業製品の融合とも言える、先駆的かつ美しい製品シリーズが誕生しました。

「ティーリ」シリーズ開発の裏側にある驚異的な研究と実験の数々、そしてアルテックの歴史との関係について、シャビエル・マニョサに聞きました。

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家業である陶芸について、陶芸との関りについて教えてください。

私の父はバルセロナ近郊の村で育ちました。隣の家にはポルトガル出身の陶芸家が住んでいて、彼の工房に出入りして陶芸を習ううちに、父自身もまた陶芸家への道を歩むことになりました。最初は、父と兄弟が一緒に装飾性の高い陶芸作品を作っており、やがて私の母もそれに加わりました。私は、幼いころから家族の工房で多くの時間を過ごして育ち、押出成形で製作を始めたのは12歳の時でした。祖母のためのキッチュな髪飾りや、花瓶に飾る陶器の花を作ったりしましたが、それはすべて私が平らにならした粘土を押出成形で押し出してカットした作品です。しかし、成長するについて、もともと絵を描くことに興味があったため、工業デザインを学ぼうと家をでました。当時の私は、陶芸にあまり興味を持てませんでしたし、いつか家業に加わるとは思いもしませんでした。

何があなたを陶芸の道に引き戻したのですか?

卒業後、私はベルリンに移り5年の月日を過ごしました。その地では、経験のある陶芸の技術をもとにセラミックの器やランプの製作に携わっていました。初めは、製作のために両親の工房を使う必要があり、数カ月ごとにバルセロナに戻っていましたが、2007年に自分の工房兼デザイン事務所としてApparatuを立ち上げました。しかし、両親は私にこう言いました。「ほら、シャビ、あなたがベルリンに残りたいならそうしなさい。でも、この工房を使い続けたいなら、戻ってきて家業に加わりなさい。」両親にとっては大変な時期でもあったようで「戻らないなら、もう工房は締めようと思っています。」とも言いました。2008年、私はベルリンを離れ、故郷に戻りました。前に進みためには、一つに方向性を絞り、集中して取り組む必要があることはわかっていたのです。そこで、私は両親に、今まで通りの仕事を続けていくのか、私のやりたい方向に共に進んでくれるのかと尋ねました。初めて、両親は私のやりたいようにやらせてくれました。

アルテックとの協働はどのように始まり、どのように進みましたか?

ある展示会で花瓶を壁に飾りたいと思いましたが、気に入ったものが見つからず自分で作ることにしました。押出成形で粘土を曲げてブラケットを作り、ついにはテーブルの脚まで作ってしまいました。私は、アルヴァ・アアルトの「L-レッグ」の考え方に深くインスパイアされてのことでしたが、アルテックがこのシリーズを気に入ってくれ、押出成形の技術を使って何かを一緒に作れないかと提案されました。アルテックからは、まったく新しい物を作ってほしいというリクエストをもらったため、私は長い間、試行錯誤と実験を繰り返しました。まず、素材としている粘土が固くて脆いということに気づきました。橋に構造が必要なように、粘土にもまた構造が必要だという声が聞こえたかのようでした。私は煉瓦の構造からハニカム状の構造を思いつき、それをとても小さなサイズで実現しました。そうして、ようやく花瓶、キャンドルホルダー、ウォールフックからなる「ティーリ」シリーズの構想に辿り着きました。

製作過程はどのようなものでしたか?

スペインには多くのレンガ造りの建物があり、築きあげてきた文化があるります。そのため、まずは煉瓦を扱う業者や職人にアドバイスを求めましたが、彼らは何をどうすればよいか混乱するばかりでした。結局、インターネットで調べた写真から金型の作り方を推測するなどして、自分たちで試行錯誤をするしか道はないと悟り、5 年間の日々はあっという間に過ぎました。最初に成功した瞬間は今でも思い出すことができます。小さな本が一冊書けそうなほどです。

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それは興味深いですね。陶芸の工房を主宰していると言うと、ろくろを回しているロマンチックな光景を思い浮かべてしまいますが、あなたは工業デザイナー、エンジニア、そしてプロデューサーとして活動しています。今回のプロジェクトは、職人、デザイナー、どちらの頭を使いましたか?両方でしょうか?

私たちはただの職人です。それが工業製品か工芸品かを決めるのは、あなた方です。私たちがどのように寝て起きるのか、当たり前の営みを改めて意識するかのように、デザインする時とその製作過程を通して学ぶことがたくさんあります。特殊な金型から粘土を押出成形し、切断し、製品として仕上げるという製造工程は、あらかじめさまざまな事を想定し、調整する必要があります。さらに、私のデザインプロセスが他のデザイナーと違うのは、製作途中でも方向性を変更できることです。そのため、職人としてのスキルだけでなく、頭の切り替えのスキルも大切です。

アルヴァ・アアルトもまた、建築家でありデザイナーであるだけでなく、職人でもありました。このプロジェクトとアルテックの歴史には素晴らしい繋がりがあるように感じられます。「ティーリ」シリーズのハニカム構造もアアルトのテキスタイルに似ていますしね。

内側の構造は、最初は正方形でしたが、ある時点で長方形に変更しました。長方形のほうが効率良い構造だったからですが、偶然、アアルトのテキスタイル「シエナ」も長方形であることに気づきました。また、アアルトも、押出成形の方法でセラミックタイルを製造しています。私は陶磁器全般が大好きです。粘土は木材よりも脆い素材ですが、同時に非常に強い。壊れやすいけれど、半永久的に使い続けることができるというセラミックならではの特徴は、そのものに独自のオーラを纏わせます。

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