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アルテックとフォルマファンタズマが提案するサステイナビリティへの新たな価値

アルテックとフォルマファンタズマが提案するサステイナビリティへの新たな価値

Formafantasma Cambio on Finnish forestry 6

フォルマファンタズマの展覧会『Cambio』は、林業と木材産業を継続的に調査し、工業化と環境危機が同時に進行する未来への指針を示すものです。この展覧会のアプローチは、オーストリア系アメリカ人のデザイナー、ハーバート・バイエルが手掛けた展覧会と彼の考えを彷彿とさせます。複雑かつ多分野に渡り階層化された世界を体験型展覧会により表現したハーバート・バイエルは次のように述べています。

「テーマ設定は見る人から遠く離れたものにすべきではありません。見る人にとって近しく、彼らの生活に深く浸透した印象に残るテーマを設定すべきです。」

彼がこの言葉を残した1937年に比べ、現代は、問題を解決するためのさまざまな先進的なテクノロジーが存在します。しかし、展覧会というものが訪れる人、見る人にインスピレーションを与え、社会を変革する可能性を秘めているというバイエルの見解は、今でも有効といえます。それでも、フォルマファンタズマによる感覚的な体験と学術的な研究の融合は、彼が生きていたとしてバイエルをも驚かせるものでした。

フォルマファンタズマは、現代のデザインに影響を及ぼす生態的、歴史的、政治的、社会的な力についての調査と研究を根幹においたデザインスタジオです。アンドレア・トレマルキとシモーネ・ファレジンにより2009年に設立されました。フォルマファンタズマは、国際的なメーカーとの協働による製品開発、そして先鋭的かつ革新的なリサーチプロジェクト、その二つを通して、私たちを取り巻く自然環境と建築空間の双方についてより深い考察を促し、より良い方に変革する媒介としてデザインを提案しています。

彼らは自らのみならず、教育や研究機関を通じて調査を行い、デザインと環境問題の境界を探りました。木材の調達とサプライチェーンによる環境への悪影響が具体的な調査事項です。フォルマファンタズマは、自然素材である木材の使用に責任を持つだけでは十分ではないと考えていました。木材がどのように地球や自然から抽出されるか、その仕組みまでを解き明かさなければなりません。

Formafantasma Andrea Trimarchi Simone Farresin
アンドレア・トレマルキとシモーネ・ファレジン photo by Simona Pavan

工業化と木材を使った産業、世界的な気候変動が森林に及ぼす影響に焦点をあて、2020年にロンドンのサーペンタイン・ギャラリーで開催された展覧会が『Cambio』でした。中世ラテン語のカンビウムをもじったカンビオは、「変化」または「交換」を意味します。各地を巡る展覧会、ウェブ上のアーカイブ資料、木材の採取、生産、流通の営みに関わる政治に変革を促すマニフェストとして、『Cambio』は進化を続けています。

フォルマファンタズマは、科学者、活動家、アーティスト、政策立案者、環境活動家など多岐に渡る専門家とともに、従来の物を作るだけのデザインを超えた協働を展開します。木材産業や木材を扱う企業が、森林のより良い未来を設計し、世界的な気候変動に対処すること、同時に生態系と経済の関係を再定義する方法を追求します。このような難解で複雑なテーマの取り組みは、理解されづらく簡単に廃れてしまう可能性もあります。しかし、ヘルベルト・バイエルの言葉を借りれば、優れたデザイン(ものに対するデザインだけでなく、フォルマファンタズマが追及するデザインも含む)は、環境が直面する現実を、多くの人に認識しやすく紐解き、表現する役割を担います。

フォルマファンタズマは、進行中の『Cambio』を踏まえ、これまで以上に的を絞ったコラボレーションに取り組みました。1935年にアルヴァ・アアルト、アイノ・アアルト、マイレ・グリクセン、ニルス=グスタフ・ハールがともに設立したフィンランドのインテリアブランド、アルテックとともに、フィンランドの森の現状と、アルテック製品の製造や物流、サプライチェーンとの関係性の調査を開始しました。

Formafantasma Cambio on Finnish forestry 3

アルテックは、創業した当初からフィンランドの森と本質的に結びついています。アルヴァ・アアルトとアイノ・アアルトは、従来のモダニズムが示した機能美に独自の解釈を加え、自然素材である木を用いた温かみあるデザインを提案しました。それまで主要素材とされてきたスチールチューブに代わり、フィンランドの国土内で豊富に調達可能な白樺の木からとれるバーチ材を曲げる独自の技法を開発し、同様の柔軟性と耐久性、「スツール 60」に代表される普遍性の高いデザインを生み出しました。 フォルマファンタズマはこう語ります。「アルヴァ・アアルトは、当時の国が置かれた状況とその限界や可能性への考慮から、デザインをスタートしました。アルテックの哲学や技法は森から生まれたと言っても過言ではありません。」

現在も、アルテックの家具の 80% 以上は、トゥルクの工場近くの森で栽培された白樺の木を伐採、調達し、フィンランド国内で製造され続けています。地元で製品生産をすることで、地元だけでなく世界的な環境に配慮し続けてきたアルテックですが、ここ最近の急速な森林の減少や世界的な気候変動の影響は、フィンランドの森にも無視できない影響を及ぼし始めています。

フォルマファンタズマのリサーチ結果は、2022 年に途中経過として、ヘルシンキデザインミュージアムで『Cambio-Finnish Forestry』という展覧会として形になりました。それはまだ出発点にすぎませんが、アルテックの製造工程を体系的に見直す契機となりました。けして軽視できない大きな出来事です。

Making of Stool 60

これまでのアルテック製品は木材選定の過程において、自然素材ならではの特徴が色濃く現れた木材を表面に使うことを制限してきました。しかし、それは、主に製品の外見的な美しさを統一する目的であり、選定で省かれる木材もまた、品質や構造上は何も問題がありません。しかし、世界的な気候変動に伴い、木材に現れる節、芯に近い色の濃い部位、昆虫による形跡などがより顕著に見られるようになり、これまでのアルテックの厳格な木材選択基準もまた再評価を余儀なくされています。 アルテックとフォルマファンタズマは、自然そのままの品質と不完全な美しさを価値として認め、それと同時に、木材選定の基準の幅を広げ、これまで以上に自然素材を無駄なく大切に使用することを提唱します。「Wild Birch」として再定義された、このより包括的な木材選択の基準は、2023年に「スツール 60」製造に採用され、以降、順次アルテック製品に適応されていきます。

アルテックの家具は、樹齢50から80年以上の木を使用しています。木々は成長するにつれて何十年にも渡り二酸化炭素を吸収し貯蔵します。木は材料や製品になった後も、二酸化炭素をそのまま蓄えています。そのため、長い樹齢の森を維持すること、伐採のサイクルを伸ばすこと、長く使うことができる木製製品を生産することはとても大切です。

アルテックとフォルマファンタズマの協働は継続しさらなる進化を遂げていきます。「デザイナーは装飾者ではなく、社会全体の中の一市民であり、同時に、周囲すべてに変化をもたらす非常に熱心な市民であるべきだ」とバイエルが結論づけたように、フォルマファンタズマは、人間だけでなく、森林を含む地球上のすべての種を含む構造を社会と捉え、その改革に挑んでいます。