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部屋としての庭

部屋としての庭

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カロリーナ・ヘルベリと私は、ヘルシンキから一時間ほど北に向かったラハティの印刷所でランチミーティングを予定していました。そこは、彼女がアルテック85周年を記念して手掛けた新作のポスター「部屋としての庭」がまさに生み出される瞬間を目にすることができるはずの場所でした。これは、若く才能あふれるフィンランドのアーティストとデザイン業界を牽引し続けてきたインテリアブランドとの刺激的なコラボレーションです。カロリーナ・ヘルベリは、若いだけでなく、個性と幾層にも重なる深みを兼ね備えたドローイングが印象的なアーティストです。それはまるで彼女自身の記憶から紡ぎ出されているかのような自伝的な要素を含んでいます。アルテックは、1935年創業時より受け継ぐマニフェストにおいて、あらゆる創造的な分野を統合することを掲げ、インテリアブランドでありながらもアートの分野を色濃く推奨してきました。創業の翌年には、アルテックストアの一画でモロッコのラグの展覧会が開催され、その後、ジョルジュ・ブラック、パブロ・ピカソ、アレクサンダー・カルダー、フェルナン・レジェなど当時最先端のアートの展覧会が次々と企画されました。

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その後、ヴァリラにある陽当たりのよい彼女のスタジオで待ち合わせをしました。この地区は、過去、産業が盛んな地区であったため、今でも作業場やクリエイティブな活動場所がたくさん存在しています。さらに、交通の便も良く、ヘルシンキの中心部からはトラムでわずか15分です。スタジオの壁には束ねられたハーブが吊るされ、ユーカリの香りが漂っていました。二つの大きなキャンパス生地が仕切りのように掛けられ、これは間もなく次の行先、アイルランドへと旅立つ準備なのと彼女は言います。二枚の生地は、まるで空白を塗りつぶすかのように、大きく広い幅でいくつかの色を塗る用意だけがしてありました。「何色に塗るか、最後にどのような仕上がりになるか、まだ自分でも全く分かりません」

アルテックの85周年記念ポスターを、自由に独自の方法で描いてほしいと言われたカロリーナ・ヘルベリは、ヘルシンキ市内中心部のやや北のムンキニエミのアアルト自邸を訪れました。アアルト自邸は、1936年、アルヴァ・アアルトとアイノ・アアルトによって設計されたアアルト自邸は、自宅兼スタジオとして家具やインテリアが整えられていました。私は、アアルト夫妻が手掛けた数ある建築の中でも、なぜ彼女がアアルト自邸に心惹かれたのかを問いました。

カロリーナ・ヘルベリ:
アアルト自邸は本当に素晴らしいところでした。訪れるのは2回目でしたが、心が惹きつけられる魅力にあふれていました。季節は7月の中旬、菖蒲や牡丹が生い茂る緑豊かな庭からガイド付きツアーは始まりました。ガイドによると、アアルト夫妻は、庭もまた包括的な建築の一部であると考えていたそうです。むしろ、庭自体も部屋と考えていた可能性もあるとのこと。また、ガイドからは庭に植えてある植物が選ばれた理由や逸話をいくつも聞くことができました。その話から、アアルト夫妻が自然や植物に対して深く考察し、大きく親密な愛情を持っていたことをうかがい知ることができました。その後も、私は紙とインクを携え、自転車を走らせ、幾度もアアルト自邸を訪れ、庭で何枚もスケッチを繰り返して、私の心を惹きつけたものを理解しようと試みました。その中で、自分自身の主題が徐々に見えてきたのです。

ジョン・ジャーヴィス:
私もいくつかそのスケッチを見せてもらいました。どれもとても素敵でしたが、そのスケッチの山からあなたは何を掴みましたか?

カロリーナ・ヘルベリ:
スケッチは、私にとって視点を定める行為でした。絵を描くことにより、そこにあるものの実態を見ることができるようになり、あらゆる角度から理解できるようになります。有機的な壁を湾曲させる方法、土台に配置された小さな石、最初は目にも留めなかった小さな物やばかばかしく思えた物が、徐々に私の感覚を研ぎ澄まさせ、特別な何かを教えてくれます。その経験を通して、私自身の情報収集の経験は深まり広がっていきます。スケッチを繰り返すこと、それがこのプロジェクトに対して見出した私の方法論でした。空間に馴染み、空間を注意深く見る行為からインスピレーション受け、自らのものとして学ぶ、そのために幾度となくアアルト自邸を訪れ、いつの間にか別次元の視点が加わりました。前日からの記憶と変化を見つけることにより、時間と空間が繋がっていく感覚を得ました。

ジョン・ジャーヴィス:
モダニストの住宅というとシンプルな印象がありますが、アアルト自邸のインテリアにはテキスタイル、家具、照明器具、植物、写真、絵画など、まるでキャンバスを埋め尽くすかのようにあらゆる要素が詰め込まれていますね。あなたはアアルト自邸の内部やインテリアはスケッチしなかったのでしょうか?

カロリーナ・ヘルベリ:
家の内部のインテリアと同じく、庭の作り方にも重要な意味があると感じました。アアルト自邸において中と外は正反対のものではなく、ひとつの論理を反映し、繋がっていると思います。内部であろうと外であろうと、空間自体が私の作品の重要なテーマです。どちらも人によって作られ、そこで暮らし、働いた人たちについてを語りかける空間、空間そのものについて考えを巡らせました。完成した作品自体にアアルト自邸の内部やインテリアが描かれていなかったとしても、そこに込められた想いやストーリーを構造の中に含んでいます。中庭を取り巻く竹のポールや、小道に配置された小石など、随所に日本的な美学が表現されていますが、アアルト夫妻は生涯日本を訪れたことはなく、書籍からこれらの要素を学び抽出したようです。場所に刻まれるかつて生きていた人、記憶、さらに彼らが何を想い何を考えていたか、それらを作品として表現したいと思いました。

ジョン・ジャーヴィス:
なぜ、描く具体的な対象として、テラスとアイノ・アアルトのプラントポットのみに絞ったのでしょうか?

カロリーナ・ヘルベリ:
家についての論理や方法論から考えても、テラスは興味深い存在です。テラスとはどんな役割を果たすのか?庭を家から続く別の部屋とみなした場合、テラスとは何なのか?テラスの定義やルールは何でしょうか?コンクリートと石という粗い素材のせいか、アアルト自邸のテラスには感動的な特別な何かがありました。それはごく個人的な私の感覚かもしれませんが、隠された秘密を垣間見たような気になったのです。特に私が惹きつけられたのは、アルヴァ・アアルトがこだわったと思われる木製のフレームや、ヒナギクの花がいっぱいに咲き誇る経年変化してペンキがはがれ始めたプラントポットです。そこにはある種、憂鬱に近い感覚が漂っていました。

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ジョン・ジャーヴィス:
あなたが感じた過去の感覚や憂鬱な感覚、その中にあなたが探しているものはありましたか?

カロリーナ・ヘルベリ:
悲しみや憂鬱さを特別に探しているというわけではありません。絵を描く際に、何か特定の感覚に絞っているということはありませんが、憂鬱な感情の方が人の興味をひきやすいということは事実です。風景や人、場所、読んだものなど、自分の心に重要な何かを及ぼしたのは何なのか、自分でも理解が難しい場合があります。別の仕事を差しはさんだり、時間を置いてみたり、時には答えが出ないこともありますが、心惹かれるものを大切にし、真摯に向き合うことにしています。それが私の製作プロセスにおいてもっとも大切なことです。

ジョン・ジャーヴィス:
あなたの作品には植物がよく登場しますね。何か理由はありますか?

カロリーナ・ヘルベリ:
植物によりますね。植物は自然との繋がりを象徴する普遍的な存在です。優れた装飾であるとともに、強い視覚的な魅力と柔らかで不思議な表情をたたえた植物は、私たちにとって終わりのない刺激を与えてくれる存在です。個人的な記憶や想いを投影することで、ある意味、設計やデザインなど人智を越える言語にもなり得、ドローイングの中のストーリーの一部でもあります。インテリアの一部として、ある特定の花束が存在する場合、その花束は、テキスタイルや家具、花瓶同様に、その空間に存在する人とリンクします。さらに、空間にいる第三者にまで影響を与えるコラージュの要素にもなるのです。アアルト自邸のテラスに植えられていたヒナギクが下の庭にもあったこと、それも誰かが何らかの意図や目的をもって植えているのだから、偶然ではなく特別な意味があるということです。

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ジョン・ジャーヴィス:
油絵から陶作まで、あなたは幅広い分野にチャレンジしています。今回水彩画を選んだのはなぜでしょうか?

カロリーナ・ヘルベリ:
水彩画も油絵と同様に絵画で、どちらが上でどちらが下ということはなく、定義は難しくとも、ただの種類の違いです。ただ、紙に水彩絵の具を描く方が普通の暮らしの中では幾分気軽で簡単ですね。紙はいつでも私の良き友人です。アアルト自邸のドローイングは、最初はすべてテラスや庭などその場でスケッチをしていましたが、完成に近づくにつれ、スタジオで描くようになりました。社会の他のすべてから隔絶され、独自の時間とルールに基づく私のスタジオには、思考と実践の両方が存在しています。スタジオ内では、視点はより内側へ内側へと内向的になり、自らの記憶と想像力と解釈に作用し、現場を描きながら培った教訓が編集し直され、新たなステージへと到達します。

ジョン・ジャーヴィス:
最後の質問です。アルヴァ・アアルトとアイノ・アアルトの建築や作品は、現代のフィンランド文化やあなたのような若い世代に繋がっていると思いますか?

カロリーナ・ヘルベリ:
はい。とても。それは決して建築だけではありません。私たちが生まれた時から、周りを見回すと、公共の建物、学校、図書館、家など、私たちが住み、勉強し、仕事をしている場所のいたるところにアルテックの家具がありました。 アルテックの創業者であるアルヴァ・アアルト、アイノ・アアルト、マイレ・グリクセン、ニルス=グスタフ・ハールの4人がともに生き、働いていた当時の熱い友情と夢、想いや感情が宿っています。デザイン、アート、テクノロジー、それらは現代のフィンランドにも共鳴しています。アルテックのマニフェストでは、これらの分野をどのように融合させていくか、フィンランド国外の世界へとどのように広げていくか、自分が存在する空間がどうあるべきかをすべての人に共有する重要性を説いていました。それこそ、私がアアルト自邸に惹かれた理由かもしれません。そこに存在するどんな小さなこともすべてが重要であり、ドアハンドルのデザイン、植物の配置、さらにはそれらを支える棒など、すべてに理由があります。大きなことから些細なことまで、すべてがアアルト夫妻の残してくれた遺産だと思います。

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